パートナーとの死別や離婚によってひとり親となった母親たちの多くが、経済的に困窮していることをご存じでしょうか。
その背景には、シングルマザーの収入格差や養育費の問題が隠れています。
本記事では、シングルマザー(母子家庭)の貧困問題の原因や、貧困が引き起こすリスク、ひとり親世帯への支援制度を解説します。
シングルマザー(母子家庭)の貧困問題とは?
日本の全世帯の貧困率と比較して、母子家庭の貧困率は非常に高い水準にあり、多くのシングルマザーやその子供たちが貧しい生活を送っています。
このことがシングルマザー(母子家庭)の貧困問題として、社会問題になっています。
ひとり親世帯の貧困率と母子家庭の平均収入
厚生労働省が行っている国民生活基礎調査(2019年)の結果によると、日本全体の貧困率は15.7%です。
これに対して、子供がいるひとり親世帯の貧困率は、日本全体の貧困率の約3倍にあたる48.3%となっています。
母子家庭や父子家庭の世帯では実に2人に1人が困窮した生活を送っているのです。
また、ひとり親世帯の年間の就労収入を母子家庭と父子家庭で比較すると、母子家庭は父子家庭の半分程度の収入しかありません。(表1)
母子家庭の約60%が200万円未満の収入での生活を余儀なくされており、ひとり親世帯の中でも特に母子家庭の貧困が深刻な問題となっています。
シングルマザー(母子家庭)の貧困率が高い原因
母子家庭の貧困率が高い理由には、主に次の2つがあります。
- シングルマザーの多くが非正規雇用
- 養育費が支払われない
シングルマザーの多くが非正規雇用
ひとり親世帯の就労状況をみると、シングルマザーの43.8%が非正規雇用であり、約2人に1人はパートかアルバイトを収入源としています。
一般的には正規雇用よりも非正規雇用の方が収入は少なくなるため、シングルマザーは収入が低く、貧困に陥りやすくなります。
シングルマザーに非正規雇用が多い理由は、女性の多くが結婚や出産を機に退職し、専業主婦やパート・アルバイトになっているためです。
下記の表どおり、ひとり親になる前の母親は約4人に1人が専業主婦です。
また、働いている母親でも半分以上がパート・アルバイトになっています。
育児とのバランスを考えて時間の融通が利く専業主婦やパート・アルバイトを選択している女性が多いのです。
そのような母親が、パートナーとの死別や離婚などでひとり親になってしまった後に、収入の高い正規雇用の仕事に就けず、パートやアルバイトの低収入で生活することになってしまうのです。
養育費が支払われない
母子家庭で、父親から養育費を受け取っている世帯の割合は24.3%にとどまっており、一度も養育費を受けたことがない母子家庭世帯が60%にものぼります。(表3)
現在も養育費を受けている | 24.3 |
養育費を受けたことがある | 15.5 |
養育費を受けたことがない | 60.7 |
不詳 | 3.8 |
出典:平成28年度全国ひとり親世帯等調査 – 厚生労働省
本来、養育費は子供のために当然支払われるべきものです。
裁判所ウェブサイトでも養育費を次のように説明しています。
養育費とは、子供が健やかに成長するために必要な費用です。
裁判所ウェブサイト
両親がその経済力に応じて養育費を分担することになります。
離婚した場合であっても、親であることに変わりはなく、子どもの養育に必要な費用を負担しなければなりません。
子どもと離れて暮らす親は、直接養育に当たっている親に対し、養育費の支払義務を負います。
ところが実際は、養育費を受け取れている人は4人に1人にも満たないのです。
養育費が支払われない理由は、離婚時の養育費に関する取り決めの有無によるところが大きく、養育費の取り決めをしている人は母子家庭全体の42.9%しかいません。
また、取り決めをしている人のうち26.3%の人が、その取り決めを示す文書を残していません。(表4)
相手に支払い能力がないとの判断や、相手との関係を早く絶ちたいといった思いから、多くの人が養育費の支払いに関する取り決めを曖昧にしてしまっています。
このため、相手に養育費を支払わせることが難しくなってしまっているのです。
養育費は月数万円程度ではありますが、収入が少ない母子家庭にとっては子供の教育や健康を維持するための大切な収入です。
この養育費が支払われないことが、母子家庭の貧困の一因になっています。
シングルマザー(母子家庭)の貧困が引き起こす問題
シングルマザー(母子家庭)の貧困は次のような問題を引き起こします。
- 教育の格差
- 貧困の連鎖
教育の格差
貧困は、子どもの教育格差につながります。
平成29年の大学進学率は、全世帯の平均が73%なのに対して、ひとり親家庭では58.5%にとどまっています。(図1)
生活のために進学を諦めて就職を選択するケースが多くなっているためで、貧困により子供の教育の機会が奪われていると言えます。
このように、貧困は教育の格差を生んでしまいます。
貧困の連鎖
貧困による教育格差は、貧困の連鎖を生む可能性が高くなります。
貧困の連鎖とは、貧困家庭で育った子が大人になって再び貧困になる状態をさします。
前述したとおり、ひとり親家庭の子供は大学進学率が低くなりますが、厚生労働所の賃金構造基本統計調査(令和2年)によると、高校卒業後に就職した人の賃金は大卒者に比べてピーク時で月額17万円以上も低くなります。
大学を諦めて就職することがその後の賃金の低下につながり、再び貧困に陥る可能性が高まってしまうのです。
シングルマザー(母子家庭)が受けられる支援制度
ひとり親が国から受けられる支援には次のようなものがあります。
特に貧困で苦しんでいるシングルマザーは、支援制度を最大限活用して、子供の教育や母子の健康を維持することが大切です。
児童扶養手当
ひとり親世帯の生活の安定と自立を目的とした手当で、18歳未満の子(障害児の場合は20歳未満)を養育する者が受給できます。
支給額:月額43,160円(児童1人目)、10,190円/月(児童二2人目)、6,110円(児童3人目以降)
母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
ひとり親の経済的自立と意欲の助成ならびに子どもの福祉を目的として、無利子もしくは金利1.0%で12種類の貸付を受けられる制度です。
①事業開始資金
②事業継続資金
③修学資金
④技能習得資金
⑤修業資金
⑥就職支度資金
⑦医療介護資金、
⑧生活資金
⑨住宅資金
⑩転宅資金
⑪就学支度資金
⑫結婚資金
出典:母子父子寡婦福祉資金貸付金制度 – 内閣府(男女共同参画局)
就業支援
- 自立支援教育訓練給付
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母などに対して受講料の一部を受給できる制度です。
支給額:対象講座の受講料の6割相当額(上限、修学年数×20万円、最大80万円) - 高等職業訓練促進給付金
看護師など、経済的自立に効果的な資格を取得するために1年以上養成機関などで修学する場合に、給付金を受給できる制度です。
支給額:月額10万円(住民税課税世帯は月額7万500円)、上限4年、課程修了までの最後の12ヵ月は4万円加算 - ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付
高等職業訓練促進給付金を活用して就職に有利な資格の取得を目指すひとり親家庭の自立の促進を図ることを目的として、高等職業訓練促進資金の貸付を受けられる制度です。
貸付額:入学準備金50万円、就職準備金20万円 - 高等学校卒業程度認定試験合格支援
ひとり親家庭の親または児童が高卒認定試験合格のための講座を受け、修了した時及び合格した時に給付金を受給できる制度です。
支給額:受講費用の最大6割、上限15万円)
まとめ
シングルマザー(母子家庭)の貧困の原因や引き起こされる問題、ひとり親を助ける支援制度について紹介してきました。
多くのシングルマザーが、経済的な困窮に耐えながら必死で子育てと仕事の両立を頑張っています。
周囲の人間が、このことを理解して精神的な支えになることも、シングルマザーの救済につながることを覚えておきましょう。
また、ひとり親の支援制度はここで紹介したもの以外にも、各自治体でさまざまな支援を行っています。
一度、お住まいの自治体の福祉課に問い合わせしてみることをお勧めします。
シングルマザーの貧困問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
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