世界の人口は年々増え続けており、80億人に達しようとしています。
その一方で日本を含む先進国の一部では、人口が減少し続けており課題となっています。
日本の人口減少の現状や、人口減少社会がもたらす問題点とその対策について解説します。
人口減少社会とは?
人口減少社会とは、継続的に人口が減少していく社会をさします。
具体的には、出生率の低下などによる自然減少の構造を持つ社会のことであり、病気の蔓延や戦争などによって一時的に人口が減少した社会は含まれません。
世界規模でみると人口は急増していますが、日本は人口が減少に転じており人口減少社会に突入しています。
日本の人口動向
明治以降に急増した日本の人口は、2008年にピークである1億2808万人に達し、その後減少に転じました。
今後の日本人口は、急勾配の坂を下るように減少することが見込まれており、2050年ころまでには1億人を切ると予測されています。(図1)
世界の人口動向
1950年には25億人だった世界の人口は、1987年には50億人を突破し、2021年には78億人に達しています。
国連の予測では、今後の世界人口は増加率が鈍化するものの今世紀いっぱいは増え続け、2100年までに108億人になると見込まれています。
出展:World Population Prospects 2019(国連)
今後100年の世界の人口増加は、サブサハラ・アフリカ地域が中心なります。
その一方で、欧州、北米、アジア地域は今世紀中に人口のピークを迎え、人口減少社会に転じると見られています。
人口減少社会の原因
日本の人口減少の原因は少子化です。
第二次ベビーブーム期に生まれた人が結婚・出産世代になる1990年代には、いわゆる第三次ベビーブームの到来が出生数の回復につながるとも期待されていまし。
しかし、第三次ベビーブームは到来せず、出生数は年々下がり続けています。(図2)
第三次ベビーブームが到来しなかった背景には、次のような要因があります。
- 未婚率、晩婚率の増加
- 出産・育児を支援する体制の不足
- 子供を多く望まない夫婦の増加
これらの要因が、今日の少子化の主な原因になっています。
未婚率・晩婚率の増加
女性の社会進出が進んだことや、生き方の多様化によって、晩婚化が進んでいます。
第二次ベビーブーム期の1975年は、25〜29歳の女性の未婚率が20.9%であり、20歳代後半の女性の5人中4人は結婚していました。
しかし2000年には、25〜29歳の女性の未婚率が54%まで上がっており、20代後半女性の2人に1人が未婚という社会になりました。
このことが、出生数を減らす方向に働いています。
出産・育児を支援する体制の不足
共働き世帯の増加によって、働きながら出産・育児をしたい夫婦が増えている一方で、子供を預けられる保育施設は不足しており、待機児童問題はいまだ解消されていません。
仕事と育児の両立が困難なため、仕事か出産かの二者択一を迫られるケースも多くあります。
意欲的に社会で活躍する女性の中には、このようなケースで仕事を選択する人も少なくありません。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、子供を持たない夫婦のみの世帯の割合は年々増加しており、1986年には14.4%だったのに対し、2019年は24.4%となっています。
共働き世帯が安心して出産・育児するための環境や支援体制の不足が、出生率増加の壁になっています。
育児にかかる費用の高騰
高校卒業後に就職する人の割合は、第二次ベビーブームだった1973年が54%だったのに対、2000年には16.5%まで減少し、大学や短大、専門学校に進学する人が増えました。
それに伴い、塾などの教育費もかかるようになり、子供1人を育てるのに2,000万〜3,000万もかかるようになりました。
その結果、経済的な事情から多くの子供を持つことが困難になっています。
これも、出生数が減っている理由のひとつです。
人口減少社会の問題点は?
人口減少は次のような問題を引き起こします。
- 労働人口の不足による経済縮小
- 地方自治体の崩壊
労働力人口の不足による経済縮小
経済活動はその担い手である労働力人口に左右されます。
少子化により労働力人口が減ると、どの産業でも人手不足となり、企業の活動が鈍化することで、国際競争力が低下してしまいます。
日本経済を支える産業の競争力が下がることで、日本の経済成長が停滞・衰退し、経済規模が縮小します。
これは、国民一人ひとりの豊かさの低下にも繋がります。
また、産業の国際競争力が低下することは、投資先としての日本の魅力を落とすことにもなります。
投資先としての魅力が落ちると、海外からの優秀な労働力流入や技術流入が減り、ますます国際競争力が低下するという悪循環に陥ってしまいます。
地方自治体の崩壊
少子化による人口減少は、産業だけでなく行政・医療・福祉の担い手の減少にも繋がります。
若者が都市部に流出する地方自治体は、人口減少による自治体の担い手不足が特に深刻になります。
担い手がいなくなると、地方の医療や福祉の体制が崩壊し、さらには行政そのものが消失しかねません。
日本創成会議による推計では、全国1800市町村のうち約半数にあたる896市町村が2040年までに消滅する恐れがあるとされています。
人口減少社会への対策
人口減少社会を克服するには、少子化に歯止めをかける必要があります。
政府は、これまでもエンゼルプランや待機児童ゼロなど、少子化に対抗する施策を実施してきています。
これらの施策は、出生率減少の歯止めに一定の効果は出ているものの、出生率を大きく回復させるには至っていません。
政府が抱える目標である出生率1.8%に対し、2019年の出生率は1.36%しかなく、さらなる施策が必要となっています。
今後、出生率を回復させ人口減少を克服するためには、次のような対策が必要になります
- 人口減少に対する危機感の共有
- 未婚・晩婚化の克服
- 若年層の結婚、出産、子育て支援
人口減少に対する危機感の共有
少子化を止め人口減少社会を克服するには、これまでの政府の取り組みだけでは不十分でした。
今後の少子化対策は、政府・地方自治体・地域社会・企業・国民1人ひとりによる総合的な取り組みが必要になっていきます。
そのためにはまず、人口減少に対する危機感の共有がより重要となります。
危機感こそが、それぞれが主体的に少子化対策に取り組む原動力になるからです。
未婚・晩婚化の克服
出生数を回復させるには、若い世代が希望する年齢で結婚できるような支援を行うことによる、未婚・晩婚化の克服が必要です。
具体的な対策としては、マッチング支援や働き方改革による長時間労働の是正などによる出会いの機会の創出支援などがあります。
若年層の出産・子育て支援の充実
共働き世代が安心して出産、育児を選択できるようにするには、「仕事か出産か」という二者択一の社会から、「仕事も出産も」が可能な社会に転換していかなくてはなりません。
妊娠から子育てまでの一貫した支援や、男女ともに仕事と育児を両立できる環境整備、経済支援が必要になります。
具体的には、条例・法律によるマタハラ防止措置、保育施設の充実による待機児童の解消、男性の育児休暇取得の制度化の促進、幼児教育・高等教育の無償化の拡充などがあります。
人口減少社会をメリットと捉える意見もある
ここまで解説してきた通り、人口減少社会がもたらす経済問題は深刻です。
その一方で、環境面では人口減少により改善する問題も存在することから、人口減少社会をメリットと捉える意見もあります。
消費エネルギーの減少
人口が減少すれば、家庭や産業が消費する電力も減少します。
現在の電力供給は、火力発電による温室効果ガスの排出や、原子力発電の災害時リスクといった課題を抱えています。
太陽光や風力発電の技術が進化し、自然エネルギーへの移行が進んではいますが、電力需要のすべてを自然エネルギーでまかなうには至っていません。
人口減少に伴って電力需要も減少すれば、課題が大きい火力発電や原子力発電を廃止し、環境に優しい自然エネルギーだけで十分な電力を供給できる日も近くなります。
ゴミの減少
環境省によると、2019年の日本のゴミ総排出量は4,274万トンであり、これは東京ドーム約115杯分に相当する量です。
これだけのゴミを処理するために年間2兆円の税金が投入されています。
また、焼却時の温室効果ガス排出や、ゴミ埋め立て地の受け入れ能力の飽和などのさまざまな環境問題を抱えています。
人口減少は、ゴミの排出量を減らしてゴミ処理に関連した問題を緩和するといったメリットがあります。
まとめ
人口減少は、環境面でのメリットはあるものの日本経済や地方自治体に与えるダメージが大きく、なんとしても克服しなければならない問題です。
そのためには、政府だけでなく地域社会や企業の取り組みも一段と重要になります。
そして何より、私たち国民一人ひとりが人口減少社会の現状を知り危機感を持つことが大切です。
一人ひとりが、それぞれの立場でできることを考え行動していきましょう。
人口減少社会の問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
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