東京一極集中という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
以前から東京一極集中は日本の課題として叫ばれており、長年取り組まれてきた問題です。
2021年1月、菅総理による内閣総理大臣施政方針演説で、改めて東京一極集中の是正が言及されました。
今、国を挙げて東京一極集中の課題に取り組もうとしています。
この記事では東京一極集中の現状や問題点、対策について解説します。
東京一極集中とは?
一極集中とは、特定の一地域に人口や経済、文化、政治などの機能が過度に集中していることをさします。
日本においては、首都である東京やその周辺(東京圏)に人口や経済、政治が集中しすぎている一極集中の状態であり、これを東京一極集中と言います。
東京一極集中の現状
人口で見ると、日本の総人口1億2,614万人のうちの11%にあたる1,404万人が東京に分布しています。(2020年10月1日時点)
また東京圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)の人口の合計は3,694万人となっており、日本の総人口の29%にあたります。これは日本人の3.4人に1人が東京圏に住んでいる計算です。
出典:人口推計 – 総務相
また、経済で見ると、日本の上場企業3,800社のうち53%にあたる2,029社が東京に本社を構えており(2021年1月15日時点)、上場企業の半数以上の本社機能が東京に集中していることになります。
出典:47都道府県別「上場会社の本社数」リスト最新版 – 四季報ONLINE
政治においても、中央省庁をはじめとした多くの行政機関が東京に集中しています。
東京一極集中の要因
東京に人口が集中している要因として、地方の若者が東京に流入していることが挙げられます。
2019年に地方から東京に転入した日本人約14.6万人のうち、実に91%が10代後半から20代の若者でした。
多くの若者が東京に転入するきっかけは進学や就職です。
希望する職種や賃金の仕事が地方では見つからないこと、希望することが学べる進学先が地方にないこと、都会での暮らしへの憧れなどから、多くの若者が進学先や就職先に東京圏を選択しているのです。
このことが、東京および東京圏に人口が集中する大きな要因になっています。
また、企業や行政機関の多くが東京に集中している理由は、経済効率性です。
仕事をする上で顧客や提携先の企業と物理的な距離が近い方が物流や移動のコストが抑えられ、生産性が高くなるメリットがあるため、企業や行政は自然に集積してきました。
大企業や行政機関の多くが東京に集中していることから、ベンチャー企業も東京に集中せざるを得ず、多様な就職先を求める若者が東京やその周辺に集中するという構図になっています。
東京一極集中が進むことへのリスク・デメリット
経済効率性の点ではメリットがある東京一極集中ですが、一方で次のような大きなリスクやデメリットも抱えています。
- 人口過密による弊害
- 災害時の被害拡大
- 地方の衰退
人口過密による弊害
人口が増えすぎたことに交通インフラが追いつかず、慢性的な交通渋滞や通勤ラッシュが発生しています。
また、新型コロナ感染症は、全国でも東京の感染者数が高い水準で推移しており、人口密度が高いほど感染症の感染が拡大しやすい傾向が見られました。(図1)
コロナ禍により、人口過密が感染症の拡大につながるというリスクが顕在化し、東京一極集中の新たな課題となっています。
出典:新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う現時点での社会・国土の変化について – 国土交通省
災害時の被害拡大
東京圏は歴史的に見ると、直下型大地震が繰り返し発生してきた地域です。
政府の地震調査研究推進本部によれば、南関東でマグニチュード7クラスの地震が今後30年以内に起きる確率が70%という極めて高い値になっています。
日本の人口の約3割が集中する東京圏で大規模災害が発生した場合、その人的被害や建物被害は甚大になるうえ、災害の対策や復興を主導するべき行政機関の機能停止も免れず、対策がままならなくなることも予想されます。
また、多くの企業が経済活動を継続できなくなることによる経済的な損失も大きく、その経済被害額は国家予算と同等の112兆円にのぼるという内閣府の試算もあります。
【出典】
調査研究レポート「首都圏の大地震の姿」 – 地震調査研究推進本部
防災情報のページ – 内閣府
地方の衰退
東京一極集中がもたらすデメリットは、東京のみにとどまりません。
東京圏に若者が流出している地方では、若者の減少がまねく担い手不足により産業の衰退や医療、福祉体制の崩壊が発生しています。
担い手不足は行政そのものの消失にもつながるリスクもあり、日本創成会議の推計によると、全国1800市町村のうち約半数にあたる896市町村が2040年までに消滅する恐れがあるとされています。
コロナ禍による東京一極集中への影響は?
コロナ禍により、東京の人口流入・流出の傾向が変化しています。
過去6年間の東京都への人口転入と転出の推移(図2)を見ると、新型コロナ感染症が拡大した2020年以降は東京へ転入する人が減り、転出する人が増える傾向にあります。
2021年は転入と転出の人数がほぼ同じになりました。
東京への転入が減り転出が増えている理由は、テレワークの仕組みや制度が一気に整備されたことで、働く場所に縛られない柔軟な働き方が可能になったことです。
テレワークの普及により、毎日出勤する必要が無くなったことをうけて、都心部から周辺地域や地方に移住することへの関心が高まっています。
このように、コロナ禍は東京一極集中の緩和という影響をもたらしました。
ただし、コロナの影響が一時的なものか継続的なものかはまだ判断できず、コロナ感染が収束に向かうにつれて人々の動きがどう変わるかの見極めが必要です。
東京一極集中への政府や各自治体の取り組み
政府や自治体が取り組んでいる東京一極集中の対策は、次の2つからなります。
- 東京圏から人を分散化させる施策
- 地方を活性化させる施策
東京圏から人を分散させる施策
東京一極集中による災害リスクを減らすためには、東京から地方へ人や企業、行政機関を分散することが必要です。
そのための取り組みを2つ紹介します。
政府機関の地方移転
政府は、行政の東京一極集中を緩和するため、中央省庁および関係機関の地方移転に取り組んでおり、その先陣として文化庁の京都への移転を令和5年3月中に完了させる計画です。
その他の省庁についても移転先選定などを行い、地方分散を進めていく予定です。
出典:政府関係機関の地方移転 – 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
地方創生テレワーク
国、地方自治体、企業が一丸となった取り組みに地方創生テレワークがあります。
地方創生テレワークとは、地方に設置したサテライトオフィスからのテレワークを推進する取り組みです。
会社を辞めずに地方移住を可能にして地方への人の流れを作るとともに、地方から東京への人口流出を防止する効果が期待されます。
地方を活性化させる施策
地方を活性化させる施策の一つとして、「まち・ひと・しごと創生」があります。
平成26年に施行された「まち・ひと・しごと創生法」にもとづき、多くの企業や公共団体が、各地域の特色を生かした新たな産業の創出や農業法人の創設を行っています。
「まち・ひと・しごと創生」により、地方の産業や農業が活性化し、将来の担い手となる若者が地方に呼び戻される効果が期待できます。
まとめ
解説してきたとおり、東京一極集中は、経済活動の効率を高める面では一定のメリットがありますが、過度な集中は災害リスクを高めるうえ、地方の衰退にもつながります。
特に、いつ発生してもおかしくない災害のリスクを軽減させる対策は、待ったなしで行う必要があります。
テレワークをはじめとしたさまざまな取り組みが、東京一極集中の緩和につながることを期待します。
東京一極集中の問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
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