近隣に食料品店がない、交通手段がないなどの理由で、食料品の買い物に苦労を感じる人たちを買い物難民、買い物弱者と呼びます。
少子高齢化の進行により、買い物難民や買い物弱者による食料品アクセス問題はますます身近になってきました。
日本のみならず、イギリスやアメリカでもフードデザート(食料品砂漠)という名で社会問題として認知され、対策に取り組まれています。
そんな買い物難民の実態や対策を解説します。
買い物難民の定義
現状は、買い物難民の明確な定義がなく、関係省庁や地方公共団体がそれぞれ独自に定義しており、買い物難民に該当する人口は、それぞれの定義によって異なっています。
農林水産省は、買い物難民を、「65歳以上の者で、自宅の500m圏内に生鮮食料品販売店舗がない、かつ自動車を保有しない者」としていて、この定義に該当する人が約825万人と公表しています。
出展:農林水産省 食料品アクセス(買い物弱者・買い物難民等)問題ポータルサイト
また、経済産業省は、買い物難民を「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買物が困難な状況に置かれている人々」としていて、全国に約700万人いると推計しています。
その推計の方法は、60歳以上人口4,198万人(平成26年10月)に、アンケートで得られた「日常の買い物に不便」と答えた人」の割合17.1%をかけたものです。
このように、関係省庁や自治体によって細かい定義は異なっていますが、日本の買い物難民の定義は高齢者を対象としているのが特徴です。
これは超高齢社会が進行している日本ならではといえます。
一方、イギリスやアメリカのフードデザートは「新鮮な果物、野菜、健康的な自然食品が不足している地域であり、貧困地域に多い」としています。
フードデザートは、低所得者層を対象にしており、健康被害を問題の中心としているのが特徴です。
買い物難民が発生する原因
買い物難民が発生する主な原因は次の3つです。
- 地域商業の衰退
- 過疎化による公共交通網の減少
- 高齢者の増加
地域商業の衰退
商店街などの地域商業施設が衰退していることが、買い物難民が発生する原因の一つです。
少子化による人口減少や後継者不足、消費スタイルの多様化や郊外立地型大型店との競争により、かつては地域の買い物の中心地だった商店街が衰退する傾向にあります。
それにより、買い物に利用していた近くの八百屋や精肉店などが廃業してしまい、買い物難民化するケースが増えています。
公共交通網の減少
地方では、人口減少や若年層の大都市流出により過疎化が進行し、公共交通機関の利用者が減っています。
利用者減少による赤字を防ぐために、電車やバスの本数が減ったり廃線なったりするケースもあり、特に中山間部ではいわゆる陸の孤島となる地域が増えています。
このように公共交通網が減少していることが、買い物難民化が発生する原因の一つです。
高齢者の増加
日本の高齢者(65歳以上)人口は、2020年時点で日本国民の28.8%にあたる3619万人となっており、高齢者の割合は年々増えづけています。
高齢者の中には、足腰が悪くなり徒歩や自転車で移動することが困難な人も多く、そんな高齢者の増加も買い物難民増加の一因です。
それに加えて、高齢者の免許証返納が強く推奨されていることも買い物難民の増加に影響しています。
買い物難民化による問題点
買い物難民化により起こり得る問題は主に次の3つです。
- 低栄養による健康被害
- 引きこもりの増加と生きがいの喪失
- 転倒・事故のリスク
低栄養による健康被害
遠くのスーパへの移動が困難な買い物難民は、近くのコンビニやファストフード店、保存期間が長いインスタント食品に頼らざるをえません。
その結果、新鮮な野菜などの栄養価の高い食品を摂取できず、糖分などが添加された高カロリー低栄養な食事が増えてしまいます。
ビタミンやミネラル、食物繊維を摂取する機会も不足するため、慢性病、糖尿病などの健康被害が生じるリスクが高まってしまいます。
実際に、イギリスやアメリカのフードデザートでは、買い物弱者の食生活の乱れによる健康被害の増大が社会問題化しており、日本でも高齢者の健康被害が深刻になる懸念があります。
引きこもりの増加と生きがいの喪失
買い物は高齢者の外出理由の多くを占めています。
買い物難民化によって買い物に行くことができなくなると、外出機会が激減し引きこもりになる高齢者が増えます。
人に会って会話する楽しみがなくなることで、意欲の低下や生きがいの喪失につながり、認知症の進行や精神面の健康に影響してしまいます。
転倒・事故のリスク
警視庁の統計によると、令和2年に歩行中の交通事故で死亡した方のうち74.2%が、65歳以上の高齢者でした。
高齢者は認知能力や情報処理能力、判断能力が低下しており、反応速度も遅くなっています。
そんな高齢者が、長い距離を移動して遠くの商店まで買い物にいくことで、交通事故にあうリスクが増大する可能性があります。
買い物難民化へ求められる対策
買い物難民に対する最も有効な対策は、その地域の特徴や高齢者のニーズによって変わってきますが、対策の切り口としては次の3つが挙げられます。
- 交通手段の支援
- 近くにお店を開設
- 家まで商品を届ける
交通手段の支援
コミュニテイバスや乗り合いタクシーといった移動手段を提供することが、自力での長距離移動が困難な買い物難民の救済になります。
全国の市町村が実施している買い物難民対策のなかでも、「コミュニティバス・乗り合いタクシーの運行等に対する支援」の割合は79.9%と最も多くなっており、最も一般的な対策といえます。
移動手段を提供することで、高齢者が外出しやすくなるため、生きがいの喪失を防ぐという効果も期待できます。
近くにお店を出店
買い物難民が多い地域にお店を出店することも、買い物難民救済になります。
やはり、買い物難民にとって一番便利でなおかつ楽しいのは、近くにお店があることです。
そのため、過疎化により廃業した空き店舗などを活用したミニスーパーの開設や、移動販売による買い物難民支援策が全国に広がっています。
家まで商品を届ける
宅配サービスや買い物代行による支援も有効な対策です。
足腰が弱くなり歩くのも苦労する高齢者にとっては、家まで食料品を届けてくれるサービスはとても助かります。
高齢者のお宅を定期的に訪問することでその地域の高齢者の健康確認ができ、話し相手になることで高齢者を元気づけられるといった効果もあります。
買い物難民化・実際の対策事例
買い物難民の対策事例として、島根県の「はたマーケット」を紹介します。
島根県雲南市の波田地区は人口296人のうちの53%が高齢者の地区です。
地域には食料品店が1軒もなく、一番近いスーパーまでは車で20分以上かかる上に公共バスもないという、典型的な買い物難民地区です。
そんな波田地区で、廃校になった小学校を活用して2014年に開設されたのがミニスーパーの「はたマーケット」です。
「はたマーケット」では販売のほか、来店できない人への宅配サービスも行っています。
スーパーを運営しているコミュニティ協議会の職員が通常業務をしながらレジ打ちも兼任することで人件費を削減したり、レジ横に設置した募金箱で宅配のガソリン代を賄ったりといった工夫と努力により、黒字経営を達成しています。
まさに持続性があり利便性も高い買い物難民対策になっています。
まとめ
高齢者が住み慣れた場所で安心して生活を続けるためには、買い物難民の支援が必須です。
現在も多くの地方自治体や民間企業、NPO団体が買い物難民の対策を行っていますが、財政事情などにより取り組みが不足している地域も少なくありません。
買い物難民の問題は少子高齢化と密接に関わるため、高齢者の日常生活を支援する地域包括ケアに含めて取り組んでいくことも重要になるでしょう。
買い物難民化の問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
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