世界では、食事を十分にとれず飢餓に苦しんでいる人たちがたくさんいます。
SDGsでも2番目の目標に「飢餓をゼロに」を掲げ、世界中の人々が十分に食事をとれるようになることを目指しています。
その一方で、毎日多くの食料が食べられることなく廃棄されているのをご存じでしょうか。
この記事では、食べられることなく廃棄される食料(食品ロス)の問題や現状、私たちができる取り組みについて解説します。
食品ロス(フードロス)の定義
食品ロス(フードロス)とは、まだ食べられるのに捨てられている食品のことです。
国際連合食糧農業機関(FAO)では、食品ロスを以下のように定義しています。
「人の消費に当てることのできる食料が、サプライチェーンの様々な段階で失われ、量が減少すること」
出典:食料ロスと食料廃棄削減に向けた地球規模の取り組み – FAO
例えば、次のようなものが食品ロスにあたります。
- 食品メーカーで食品を製造するときにでるくずや、パッケージの印刷ミスなどによる不良品
- 小売店で売れ残った肉や魚、野菜、弁当など
- 飲食店で作りすぎて余った料理や、お客の食べ残し
- 家庭での食べ残しや、料理する際に厚くむきすぎた野菜や果物の皮
食品ロス(フードロス)の問題とは?
食品ロスによって無駄になってしまう食料が増えることで、次の問題が発生します。
お金が無駄になる
肉や魚、野菜を育て、収穫し、加工し、運び、売るのに多くの人手とお金がかかっています。
特に日本は食料自給率が37%しかなく、食品の6割以上が海外からの輸入です。
そのため、輸送コストも多くかかっていますが、最終的に食べられずに捨てられてしまったのでは、加工や輸送にかかった費用が無駄になってしまいます。
また、食品ロスが増えれば廃棄されるゴミが増えるため、その分ゴミの焼却費用も余分にかかります。
2019年にゴミを処分するためにかかったお金は日本全体で2兆3200億円です。
この処理費用には私たちが払った税金も使われています。
食品ロスが増えれば、ゴミ処理にかかる費用はさらに増えてしまいます。
地球環境を悪化させる
野菜くずや食べ残しなどの生ゴミは水分を多く含んでいるため、あまりよく燃えません。
そのため多くのゴミ処理施設では重油や灯油などの化石燃料を燃やして、焼却炉を高温に保つことで生ゴミを燃やしています。
化石燃料の主成分は炭素であり、燃やすことで酸素と結合して二酸化炭素が排出されます。
この二酸化炭素は地球温暖化の原因となり、地球環境にさまざまな悪影響を与えてしまうのです。
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減は世界の課題となっており、日本でも2020年の菅首相の所信表明の中で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という高い目標が掲げられました。
この目標を達成するためにも食品ロスをなくさなくてはなりません。
世界の食料不足に拍車をかける
世界の人口は2021年時点で約78億7500万人ですが、そのうちの9.7%にあたる約8億1100万人の人々が十分に食料を食べられず栄養が足りていない飢餓の状態にあります。
実に世界の10人に1人がうえに苦しんでいるのです。
その一方で、豊かな国では毎年多くの食品が食べられることなく廃棄されています。
豊かな国が食品をたくさん買えば買うほど食品の価格が上がってしまい、飢餓の状態にある人々がますます食品を手に入れにくくなってしまいます。
食品ロスをなくすことは、食品の価格上昇を抑えて飢餓に苦しんでいる人を救うことにもなるのです。
食品ロス(フードロス)の現状
世界や日本で、現状どのくらいの量の食品ロスが発生しているのかを紹介します。
世界の食品ロス(フードロス)の現状
世界では毎年約13億トンもの食料が食べられずに廃棄されています。
これは世界の食料生産量の3分の1に相当する量です。
この大量の食品ロスを減らすことは世界の課題として捉えられており、SDGsの12番目の目標「つくる責任 つかう責任」を達成するための具体的なターゲットの一つとして以下の目標が設定されています。
「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」
日本の食品ロス(フードロス)の現状
日本でも、毎年多くの食品ロスが発生しており、2019年度の日本の食品ロスの量は570万トンと推計されています。
そのうちの54%は食品メーカーや小売店、飲食店で発生した食品ロス。
残りの46%は家庭で発生した食品ロスです。(図1)
家庭で発生した食品ロスの内訳は、食べ残しが45%、賞味期限や消費期限を超えたことによる直接廃棄が41%、調理の際に野菜の皮を厚くむいてしまうなど食べられる部分まで捨ててしまう過剰除去が14%となっています。(図2)
日本の食品ロスの量は、国民一人が毎日おにぎり1個分の食料を捨てているのに相当します。
おにぎり1個と聞くと大したことないと感じるかもしれませんが、日本全体で毎日1億2000万個のおにぎりが捨てられていると考えると、いかに多くの食品が無駄になっているかがわかります。
食品ロス(フードロス)に対して私たちが取り組めること
食品ロスを減らすには、私たち一人一人が「家庭での食品ロスを減らすこと」と「食品を買う店や飲食店での食品ロスを減らすこと」の両方を意識することが大切です。
食品ロスを減らすために私たちが取り組める具体的な活動を紹介します。
賞味期限と消費期限を正しく理解する
賞味期限は「おいしく食べられる目安」として食品メーカーが定めた日付です。
賞味期限を過ぎると風味や食感が変わりますが、すぐ食べられなくなるわけではありません。
一方の消費期限は、お弁当やサンドイッチなどの傷みやすい食品につけられる日付で、「安全に食べられる期限」を示しています。
賞味期限と消費期限の意味を正しく理解し、賞味期限を多少過ぎている食品はまだ食べられること、消費期限がつけられた食品は期限までに食べきることを意識しましょう。
期限の近いものから購入する
スーパーなどで食品を買うとき、ついつい賞味期限や消費期限が新しい商品を選んでしまう人も多いでしょう。
ですが、みんなが新しい食品ばかり選んでいると、期限が古い商品が売れ残ってしまい食品ロスにつながってしまいます。
表示された期限までに食べる予定があるのなら、あえて新しい商品を選ばずに期限が近い商品を選ぶことで、小売店での食品ロス削減に貢献できます。
使い切れる量しか買わない
最近では、量が多くその分、割安になっている商品もよく見られます。
ですが、割安で買えたとしても余らせて捨てることになると、結局は高くつきます。
商品を買うときは、使い切れるかをよく考えて必要な量しか買わないようにしましょう。
食品を買いすぎないようにするためには、買い物前に冷蔵庫の中身をスマホで撮影しておくといったことも有効です。
正しく保存する
食品は、「要冷蔵」や「高温多湿を避けて保存」など、物によって適切な保存方法が異なります。
保存方法を間違えると食品が傷んでしまい、無駄になってしまいます。
食品ロスを減らすには、パッケージに記載されている保存方法をよく確認し、正しく保存することも大切です。
無駄なく使う
野菜など皮をむきすぎてしまう過剰除去も食品ロスの原因の一つです。
調理するときは、食べられる部分をなるべく残すよう意識することが大切です。
非常食はローリングストック法で
災害時の備えとして食料や水を備蓄している家庭も多いですが、備蓄している食料を非常袋に入れっぱなしにしていると、気が付いたら期限が切れていたなどということにもなりかねません。
備蓄食料は非常袋に入れっぱなしにせず、使っては買い足すローリングストック法で備蓄することで、期限切れによる食品ロスを防げます。
3010運動
長野県松本市などでは「3010運動」を推進して、飲食店での食べきりを促進しています。
「3010運動」とは、宴会などで「乾杯後30分は席を立たずに料理を楽しむ」「お開き前最後の10分は自分の席に戻って再度料理を楽しむ」ことで、食べ残しをなくすという活動です。
会食などの際に3010運動を実践することで、食品ロスを減らせます。
自己責任で持ち帰る
飲食店での食べ残しの持ち帰りは、安全性の面から断る店が少なくありませんでした。
そこで2017年に政府から「食中毒の危険性を十分に理解したうえで自己責任で持ち帰る、生ものは不可、持ち帰った料理は帰宅後に再加熱して速やかに食べる」などの、飲食店での食べ残しを持ち帰る場合のガイドラインが示されています。
最近では、このガイドラインに沿って、持ち帰りを認める飲食店が増えてきました。
飲食店でどうしても食べきれない場合は、自己責任で持ち帰って食べるようにすることも、食品ロスを防ぐことにつながります。
フードドライブを活用する
フードドライブとは、自治体やフードバンク団体が食品を集め、食べ物が必要な施設などに集めた食品を提供する活動です。
「お中元やお歳暮などでいただいたけど家では使わない」といった食品は、捨てるのではなくフードドライブに提供することで食品ロスを防げます。
お近くの自治体でフードドライブを実施しているかどうか確認してみましょう。
まとめ
食品ロスの問題点や現状の紹介、私たちができる取り組みについて解説しました。
食品ロスを減らす第一歩は、食品ロスの実態を知って「もったいない」という気持ちを持つことです。
私たち一人一人のちょっとした心がけで食品ロスを減らせます。
「もったいない」という気持ちを持って、ご自身の食生活を見直し、できることから取り組んでいきましょう。
食料ロス(フードロス)の問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
これらの社会問題の解決に向けたヒントや取り組み、この記事で紹介されていない国内における問題などがあれば、当サイトの提案フォーラムに投稿してみてください。
最初は少数な提案意見でも、みんなの声が集まれば、大きな声として社会に届くかもしれません。