限界集落という言葉を聞いたことがある人は多いかと思います。
限界集落とはその文字通り、集落の維持が限界にさしかかっている集落のことです。
そのような限界集落の現状や問題点、対策について解説していきます。
限界集落とは
限界集落とは、具体的には「集落人口の50%以上が65歳以上となり集落機能の維持が困難になっている集落」のことです。
ここでいう集落とは、各市町村の行政で定められた「地区」の最少単位のことであり、かつては隣組とも呼ばれていた共同体をさします。
また、集落機能とは具体的に次のような社会的共同作業をさします。
- 農業や草刈りといった共同作業
- 水源や生活道路などの生活機能の維持
- 冠婚葬祭などの支え合い活動
- 神事や伝統行事などの伝統文化の継承
限界集落という用語
限界集落という用語は、1991年に社会学者の大野晃氏が提唱した言葉です。
大野氏は、過疎地域の中でも特に集落機能の維持が困難で将来の消滅が危ぶまれる集落を、「限界」という危機意識を生む言葉をあえて使って表現しました。
ですが、住民にとっては自分の住む集落を「限界」と言われるのはあまりいい気がせず、限界集落という用語の使用には批判的な意見もあります。
そのため、総務省や国土交通省の最近の公式文書では「限界集落」という言葉は使わず、「集落機能の維持困難な集落」という表現を用いるようになっています。
限界集落の特徴
総務省が令和1年度に行った調査によると、限界集落には次のような2つの特徴が見られます。
山間部に多い
集落機能の維持困難な集落のうちの75.6%が山間部に位置しており、18.6%は山間部と平地の中間地域に存在しています。
一方で、平地や都市的地域ではその比率が大きく下がります。(表1)
このように、山沿いで傾斜が多く住みにくい地域に多く分布しているのが、限界集落の特徴の一つです。
地域区分 | 集落機能の維持が困難な集落率 |
---|---|
山間地(林野率が80%以上の土地) | 75.6% |
中間地(山間地と平地の間の土地) | 18.6% |
平地(林野率が50%未満でかつ耕地率20%以上) | 5.2% |
都市的地域、人口集中地区 | 0.3% |
本庁までの距離が遠い
市町村の本庁(市役所や役場)から距離が離れるほど、「集落機能の維持困難な集落」が多くなる傾向があります。
限界集落のうちの約4割は本庁から20km以上離れた地域に存在していて、本庁に近い地域ほどその割合は少なくなっていきます。(表2)
市町村の中心地から距離があり、生活に不便な地域ほど多くなるのが、限界集落の特等の一つです。
本庁までの距離 | 集落機能の維持が困難な集落率 |
---|---|
20km以上 | 42.7% |
10〜20km | 33.5% |
5〜10km | 15.7% |
5km未満 | 7.8% |
これらの特徴からわかるとおり、限界集落は生活条件が厳しい地域ほど多く存在しています。
限界集落に発生する問題点
限界集落には、次のような問題が発生します。
集落存続の問題
限界集落では、住民の自治活動による防災や水源の管理、除雪といった、生活を維持するための共同活動が難しくなっています。
また、住民が支え合って実施してきた冠婚葬祭の行事を行うことも困難な状態です。
そのため、限界集落の住民は生活を継続することすら難しくなっていき、生活するのに便利な地域に出ていかざるを得なくなります。
そのようにして徐々に人口が減っていくと、やがて集落の消滅に至ってしまいます。
環境上の問題
限界集落では、それまで住民が協力して行ってきた農作業や草刈りなどの共同作業が行えなくなっています。
その結果、農林地や田畑が放棄されて荒れ放題となり、自然環境の悪化に繋がります。
農林地や田畑が荒廃すると、雑草や害虫が発生して、通常の農作業では農地として再生することが不可能になりかねません。
また、人の手が入らなくなった田畑はクマやイノシシなどの野生動物の行動範囲になり、住民と野生動物が遭遇する危険が高まります。
文化上の問題
集落の中には、その地域で執り行ってきた神事や伝統行事も多くあります。
しかし限界集落では、そのような文化的な活動の継続が困難になり、伝統の継承ができません。
限界集落の原因
限界集落が生まれる原因は過疎化による人口減少と高齢化です。
過疎化による人口減少
次世代の担い手となるはずの若者は、山間部などでの不便な生活を嫌って都市部に出ていってしまいます。
その一方で、集落に産業がないなどの理由により転入してくる人は少なく、集落の人口は徐々に減ってきます。
特に集落から若い世代が減ることで、集落の機能を維持するための社会的共同活動を担う人がいなくなるのが、限界集落が生まれる原因です。
総務省の調査にでも、集落人口が少なくなるほど「集落機能の維持困難な集落」に至る割合が高くなることが裏付けられています。
集落人口 | 集落機能の維持が困難な集落率 |
---|---|
9人以下 | 42.3% |
10〜24人 | 32.3% |
25〜49人 | 16.3% |
50〜99人 | 5.5% |
100〜199人 | 1.9% |
200〜499人 | 0.5% |
500〜999人 | 0.1% |
1000人以上 | 0% |
高齢化
人口減少に加えて、集落の住民の高齢化も集落機能の維持が困難になる原因となります。
高齢になり体力低下や健康上の問題を抱えた人は、農作業や草刈りなどの共同作業に参加することが困難です。
高齢化によりそのような人の割合が増えると、集落の機能維持に参加できる人がいなくなり、限界集落が生まれます。
限界集落はどれくらい存在している?
高齢者が人口の50%以上を占める集落は、全国に22,437ヵ所存在しています。
そのうち、市町村へのヒアリングで「集落機能の維持が困難」とされる集落は1,972ヵ所です。
また、今後10年以内に消滅(無人化)の可能性がある集落が505集落と予想されています。
限界集落への対策・取り組み
限界集落への対策・取り組みは、主に次の2つのアプローチです。
- 集落支援活動による高齢者の支援
- 地域創生活動による地域の活性化
集落支援活動による高齢者の支援
総務省は、「住民が集落の問題を自らの課題としてとらえ、市町村がこれに十分な目配りをしたうえで施策を実施していく」方策として集落支援員制度を制定しています。
この制度は、「地域の実情に詳しく、集落対策の推進に関してノウハウ・知見を有した人材」が、「集落の地方自治体からの委嘱」を受け、集落への「目配り」として集落の巡回、状況把握、集落機能の支援等を実施するものです。
令和2年時点では専任・兼任合わせた4,824名の集落支援員が、全国の3府県358市町村で集落の機能支援の活動を行っています。
ここで活動の一例を紹介します。
福井県福井市の集落支援活動
福井県福井市は平成30年度に2名の集落支援員を配置し集落の見回り、現状把握、住民支援を行いました。
集落支援員は高齢者世帯の訪問・声掛け、地域行事の運営支援、農業支援を中心に活動しており、集落の問題の把握や高齢者の生きがい創出、行事や農業といった生活支援による集落機能の維持に貢献しています。
地方創生活動による地域の活性化
内閣府は、地方創生を目指して「まち・ひと・しごと創生法」を平成26年に成立しました。
「まち・ひと・しごと創生法」は、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度な集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目的としています。
まち:国民一人ひとりが夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成
ひと:地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保
しごと:地域における魅力ある多様な就業の機会の創出
「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、多くの企業や公共団体が、各地域の特色を生かした新たな産業の創出や農業法人の創設を行っています。
それにより集落に将来の担い手となる若者を呼び込み、限界集落を持続可能な集落へと再生することが目標です。
ここでも活動の一例を紹介します。
兵庫県篠山市「集落丸山」
兵庫県篠山市の丸山地区は2009年の時点で集落人口がわずか19人、集落にある12戸の家屋のうち7戸が空き家という消滅寸前の集落でした。
2010年に、古民家再生を手掛ける企業NOTEが空き家をリノベーションして宿泊施設やレストランに改築し、農泊ビジネスとして「集落丸山」を開業しました。
農家民宿や古民家の宿などに宿泊して、日本の伝統的な暮らしぶりを体験したり地域の人との交流を楽しめたりできる集落丸山は、年間800人を集客するようになり、消滅寸前だった集落に活気が戻っています。
それにより、人口も徐々に回復してきています。
まとめ
限界集落の問題点や原因、対策の取り組みについて解説してきました。
限界集落はどの都道府県にも存在しており、少子高齢化に突き進む日本では、このような限界集落は将来ますます増えていきます。
問題の解決には、国、地方自治体、企業、限界集落の住民の共同が必要です。
紹介した集落丸山のような成功事例からノウハウを学び、各地域の特色に合わせて展開していくことが重要となっていくでしょう。
限界集落の問題だけでなく、その他の社会問題について詳しく知りたい方は【最新版】日本が抱えている社会問題(社会課題)とは?の記事を是非読んでみてください。
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